つくば心療内科クリニックは、1階に診療所、2階に社会復帰支援施設を配置した建築です。 心療内科クリニックには、他の診療科のような大型医療機器はありません。そこにあるのは「人」と「空間」だけです。だからこそ私は、「空間そのものが患者の病を癒やす」ことをテーマに設計を行いました。
目指したのは「クリニックらしくないクリニック」です。 エントランスやロビーはホテルのような佇まいに、診察室は自宅のダイニングルームのように、そして2階のリハビリテーションスペースはカフェのような雰囲気に設えています。「必要がなくても行きたくなる」、そんな場所を目指しました。
クライアントからの要望は明確でした。「空間には人を癒やす力がある」「以前は話せなかった患者さんが、環境が変わることで話せるようになることがある」という言葉が、設計の核心となりました。また、「患者さんが気兼ねなく通えるサードプレイス(第3の居場所)のような場所にしたい」という要望もありました。
これに応えるため、エントランスは人目を気にせずアクセスできるよう建物の裏手に配置しつつ、一歩中に入れば明るく開放的な空間が広がる構成としています。
敷地面積には限りがあり、要望される機能を納めるには工夫が必要でした。そこで、エントランスとロビーには奥行きを持たせ、大きな吹き抜けを設けることで広がりを演出しています。 構造は木造です。木造でこれだけの大スパンと奥行きを確保することは技術的に困難でしたが、240mm角の太い柱を採用することで解決しました。また、2階の音が1階の診察室に響かないよう、上下階で部屋の用途が重ならないようプランニングを調整しています。これらの制約と解決策が、結果としてダイナミックで幻想的な構造美を生み出しました。
外観は、1階と2階で対照的な表情を持たせています。1階の外壁には幅の広いアーチ窓を連続させ、穏やかで落ち着いた印象を与えます。対照的に、2階の外壁は黒い鉄のような素材感で仕上げ、力強さを表現しました。
インテリアには、一部にゴールドを取り入れています。これは「リラックス」の中にも「強さ」を表現するためです。例えばロビーでは、ベージュの床タイルや木の柱が安らぎを与える一方で、ゴールドのルーバーが凛とした強さを添えています。
本来、病院というのはあまり進んで行きたくなる場所ではありません。しかしこのクリニックは、患者さんが必要に迫られなくても訪れたくなるような、そして患者さん以外の人々も集える、地域の「サードプレイス」となることを願っています。
また、SDGsの観点から、「心とコミュニティの原点回帰」も意識しました。 運営面では完全なキャッシュレス化・ペーパーレス化を導入して廃棄物を最小限に抑え、建物の建設時および運用時のカーボンフットプリント(環境負荷)を低減しています。さらに太陽光発電パネルを設置し、施設内の電力はすべて自家発電で賄うエコシステムを実現しています。