軽井沢の傾斜地に建つ別荘。うねる屋根と段床、曲面壁の連なりが、森を散策するような時間体験を室内へと引き込む住宅建築。
「自由と不可測」
都心で多忙な日常を送るクライアントが、家族やゲストとの貴重な時間を、豊かな森でゆったり過ごすための別荘である。外観から内部の様子が容易に予期できない家を、クライアントは希望した。アプローチ道路から内部へ至る一連の時間体験をどう計画したら良いかが問われる一方で、山の斜面に位置する敷地周辺の森を歩き廻ってみると、そこには既に時間的属性が備わっているようにも感じられた。森の散策体験を内包したような、不可測な家を目指した。敷地上部から見下ろすと、傾斜地の中腹にうねったコンクリート屋根が浮かんで見える。背後の山並に重なりあう有機的なシルエットは、湾曲したアプローチを下るに連れ変容し、やがて訪問者の頭上を覆うアーチへと生成する。屋根は駐車場の上部で傾斜地に接地しており、その上ではインスタントに「山歩き」が体験できる。内部では、屋根の起伏がそのまま天井面に反映されており、周囲の森と同様に家の中でも散策が体験できる。傾斜地の高低差は棚田状の段床として室内に介入し、訪問者の視線に多彩な変化をもたらす。
「風景の対位法」
エントランスから樹幹のような曲面壁の隙間を縫いリビングへ進むに連れ、天井は高く丸みを帯び、眺望は遠方へと開かれる。各々の「樹幹」には本棚やキッチン、暖炉を取り込む大小さまざまの「ニッチ」が彫り込まれている。風呂の途中で本棚に「寄り道」してみたり、キッチンで料理しながらふと背後の山並みの色づきに目を奪われたりと、ニッチから多様な振る舞いが開かれ、偶然の楽しみや発見が生まれる。家の内外を散策する中で、様々な場所から奏でられるポリフォニーを体感できる。建築と自然が重なり合う風景は、対位法(カウンターポイント)による音楽のように変容と反復を繰り返す。身体が環境と響き合う中で、忘れかけていた自由が再び息を吹き返す。