築200年以上の古民家が母屋として毅然と存在感を漂わせている敷地だった。周辺環境も古い民家と田んぼが連なる長閑な場所である。詩人であるご主人と奥様の為の建築である。多くの蔵書を納める為の書庫と詩を創作する為の机、お二人で穏やかな時間を過ごす為に必要な最小限の機能を設計した。
建築完成後、蔵書が納められた書庫に初めて入った時に、不思議な感覚に襲われた。本の数なら単純に図書館の方が多く数に圧倒されている訳でもなく、本屋のように開かれた場所ではないものの建築中には何度となく入った慣れた部屋である。その感覚の正体がわからぬまま写真撮影当日となった。撮影中、建主さんが本の整理をしているのを見たときにその感覚の正体がわかった。
読んだ本がその人と人生に大きな影響を与えるというのは既知であるが、建主さんの人生に影響を与えた本がこれだけの量でまとまっていると建主さん自身の感覚や感性、理性や本能といったその人をその人たらしめる全てを覗いているような・・・またその深さと広大さを知り自分の存在の小ささに気づいてしまう恐怖的な感覚だった。
その本たちは誰かに見せるためのコレクションなどではなく、建主さんが今まで読み、人生に刻んだ知と感性の足跡なのだと思った。
自然光が最小限に抑えられた、暗く沈む書庫、溢れる書物の中、感覚を研ぎ澄ましたその先に建主さんしかわからぬ本の囁きを聴きながら本との対話を、そして自分自身との対話をし続けるのだろう。空間は五感全てで浸るものだ。